作品名:アミアブラドレス
素材:網脂(豚)、レース、オーガンジー、クリノリン
制作時期:2025年8月末~10月
制作動機:この作品は、他人の目を過剰に気にして流行を追うことが当たり前になっている風潮への疑問、そしてそれに対する私なりのストライキの意味を込めました。
作品に用いたのは「豚の脾臓の下にある網脂(あみあぶら)」という内臓です。見た目はレースのように繊細で美しくも見えますが、実際には多くの人が嫌悪感を抱く部位です。私はこの「美しいが忌避される素材」を使うことで、社会や同年代の女子の中にある“見かけや流行に左右される価値観”を問いかけています。
その考えが強くなったきっかけは、高校2年生で女子高に転入したことでした。そこでは、周囲に過剰に合わせる文化が強く、「皆がしていないなら自分もしない」という無言のルールがありました。たとえ社会的に正しいことでも、皆と違えば浮いてしまう。私はそうとは知らずに自分の価値観で行動していたため、初めは反感を買うこともありました。
最近になって、当時のことを友人に尋ねたところ、「あなたのしていたことは悪くないけど、一人だけやるのはちょっと恥ずかしい」と言われました。その返答に、私はさらに疑問を抱くようになったのです。
たとえば私は「ハンディファン」が流行っていても、自分自身が価値を感じられなければ使いたいとは思いません。軽くて電源いらず、環境にもやさしい「扇子」の方が合理的だと思います。
しかし、いくら扇子をすすめても、みんなが使っていないという理由で敬遠されます。「ダサい」と感じるのは私の方なのでしょうか。
このような違和感を、私は今回の作品に込めました。
さらに、網脂を使おうと思った理由には、自然界がもつ原初的な美と、人間がテクノロジーによって生み出す人工的な美の対比を表現したいという思いもあります。
網脂の透けるような膜や血管の模様には、生命の機能そのものが宿っています。それは「自然が生み出した必然としての美」であり、装飾を目的としないにもかかわらず、無意識の構造美を内包しています。一方で、トーションレースのような人工的な素材は、人が“美しくあろう”と意図して設計した秩序の美です。
その人工的な完璧さと、自然物がもつ不完全ゆえの調和。その二つを並置することで、私は「どちらの美がより真実なのか」を観る者に問いたいと考えました。
また、私はこの作品を将来的に「フード3Dプリンター」で再構築することを目標としています。近年台頭してきたフードプリンティング技術は様々な食品を出力できるのが特徴です。
その技術を利用することで、生命的な素材をデジタル技術で再生成し、より先端的に生物の有機的な美しさと人の感性や感覚との感覚を探る芸術表現を目指す試みです。DNAが生命の設計図であるように、私はそこにも「情報としての生命の形」があると感じます。
アナログな素材(網脂)を通して“生の質感”を見つめ直し、デジタル技術によってそれを再現する行為は、私にとって「デジタルアート=新たな生命表現」の第一歩です。
自分で考え、選び、身につけ、表現する。そうして初めて「かわいい」や「美しい」は意味を持つと私は信じています。
この作品は、その信念と、生命とテクノロジーを接続する未来の芸術表現への探究心を込めた、私からのメッセージです。